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  • セクター横断型の政策形成

    学部・研究科
    総合政策・環境情報学部
    登録番号
    49765
    科目ソート
    X1110
    分野
    特設科目
    単位
    2単位
    K-Number
    FPE-CO-06103-211-06
    開講年度・学期
    2022 秋学期
    授業教員名
    千正 康裕 
    実施形態
    対面
    授業形態
    ※「授業形態」と「能動的学修形式」の対応についてはこちらをご覧ください。
    講義
    曜日・時限
    水 5限
    授業で使う言語
    日本語

     日本の政策形成過程は、90 年代後半から大きく変化をしています。いわゆる官僚主導から政治主導・官邸主導への流れが加速しています。これには、かつての省庁の領域ごとに関係者との調整を経て最適解を出していく政策形成の手法が機能しなくなってきたことが大きいです。
     経済の停滞、財政問題、グローバル化、人口減少・少子高齢化、環境・エネルギー問題、新技術、格差の拡大、雇用の流動化、地方の疲弊、災害や感染症、孤独・孤立など省庁の分野ごとの政策形成の手法では、解決が難しい課題が増えています。
     また、省庁ごとの伝統的な官僚主導の政策形成は、同じような立場の人たちを組織化した中間組織を媒介としてなされてきました。高度成長期にはこうした手法が機能していましたが、人々の生活や価値観の多様化・流動化などによって、中間組織の組織力や意見集約機能も落ちていることも、伝統的な政策形成が最適解を導きにくくなってきた大きな要因です。
     さらに、衆議院における小選挙区制比例代表並立制の導入や、無党派層の拡大により、政治状況も大きく変化しました。特定の支持団体の指示だけでは当選できなくなり、無党派層の支持を集めることが選挙の鍵になりました。一人しか当選しない小選挙区制では、
    与党か野党かを選択する選挙になりますが、その時々の内閣支持率が選挙結果に大きく結びつくようになり、実際に 2009 年と 2012 年には政権交代も経験しました。政権の座につく者としては、常に支持率を高く保っていないと与党からも倒閣運動が起こる構図になりました。政権運営を円滑に進めるためには、支持率に直結するような注目度の高い課題については、政権中枢で迅速に対応策を打ち出していく必要性が出てきました。
     国民の側も、情報の入手方法が大手メディアからインターネットメディア、SNSなどに大きくシフトしています。特に、若い世代にはその傾向が顕著です。特に、2010 年代に入ってSNSが普及してからは、組織化されない有権者の声が可視化され、拡散されることにより、政府・与党が決めた一度決めた方針が覆る例も増えてきました。
     このような、社会経済状況や政治状況の変化、人の生活の変化の中で、官邸主導は時代の要請であったと考えられ、それを実現するために内閣府創設、経済財政諮問会議等の創設、内閣人事局による官僚の幹部人事の一元化などの仕組みが整えられてきました。
     国民のニーズを勘案して、政策が早く大きく動くようになったことは、よいことですが、政策形成過程におけるエビデンスを踏まえて適切に意見集約するためのシステムが、まだこの社会では確立されておらず、時には社会のニーズを読み違えた政策を打ち出すことも
    あります。まだ、この国の政策形成過程は、変化の途上にあり、一層の進歩が必要です。
     こうした政策形成過程の変遷、現在地と課題を明らかにしつつ、理想の政策形成過程を確立していくには、どうしたらよいかといったことは、この国の将来のためにも必要不可欠なことです。
     そのために、必要なことは、政治家や官僚といった政策をつくるという活動をいわば本業としてやっている人たちに任せているのではなく、政策の種となる情報を持っている生活者、企業・NPOなどの民間セクター、自治体などが、政策形成過程の中心にいる政治家や官僚にしっかりとしたインプットをしていくことが重要ですし、政策実現に必要なより多くの人の支持を集めるためには、メディアや有識者・インフルエンサーの後押しを含めた広報戦略も重要になってきます。つまり、今まで以上に、セクターを越えた協働による政策形成過程を構築していく必要性が高まっています。
     このことは、政策づくりをしたい人たちだけの問題ではありません。企業やソーシャルセクターの事業開発・拡大に挑む人たちや生活者にも非常に重要なことです。自らの活動を進めるため、あるいは課題を解決するために、活動を広げていくと必ずルールや制度の問題に行き当たります。例えば、AI、自動運転、ドローン技術、iPS 細胞技術の実装を進めるためには、研究開発と並行して、そうした新技術を想定していない法律などのルール変更を進めなければなりません。それが遅れれば、せっかくの研究の成果が多くの人にも届きませんし、ビジネスの足かせにもなります。ひいては、経済という面でも諸外国に後れを取ることになります。
     SFCの学生には、公務員など政策の道に進む人以外にも、大企業への就職、研究者、ソーシャルセクター、起業など多様な進路があると思います。いずれの道に進む学生にとっても、社会をよりよい方向に大きく変えたいのであれば、未来の政策形成過程の構築と参画に携わる手法を学ぶことは大きな意義があると信じています。講義では、そのような多様なセクターの実践家のモデルとなりうるゲスト講師との対話も交えながら、学生の社会課題解決能力の向上を目指します。

検索条件

開講年度・学期
2022
授業教員名
千正