
本授業は、建築・都市・ランドスケープを中心に環境デザインの専門家を目指す学生を対象としており、そのような学生が一番最初に履修すべき授業に位置付けられる。SFCの建築・都市・ランドスケープ教育においては、下記にあげるような設計演習系授業が学びの核となる。先端科目の3つの「デザインスタジオ」は、「デジタルデザイン基礎」あるいは「デザインスタジオ基礎」を履修済みの学生しか原則履修することができない。したがって、今後より専門的な環境デザインの授業を履修する上で、本授業で修得する知識や技術は必須の能力となるため、なるべく早い学年での履修が望ましい。また、建築の3Dモデリングや図面・パース作成などのデジタルスキルをより詳細に学びたい学生には、「建築CAD入門」を同時に履修することをおすすめする。
【基盤科目(設計演習)】
・ 春学期「デジタルデザイン基礎(本授業)」(椅子の設計および制作)
・ 秋学期「デザインスタジオ基礎」(パビリオンの設計)
【先端科目(設計演習)】
・ 春学期「デザインスタジオ(住まいと環境)」(住宅の設計)
・ 秋学期「デザインスタジオ(都市と建築)」(複合建築の設計)
・ 春学期「デザインスタジオ(自然と建築)」(都市・ランドスケープの設計)
【特設科目(設計演習)】
・ 春学期「SBC実践(ランドスケープ)」(未来創造塾βビレッジのランドスケープの設計および制作)
・ 秋学期「SBC実践(建築A)」(未来創造塾βビレッジの家具の設計および制作)
【基盤科目(デジタル技術習得)】
・ 春学期「建築CAD入門」(建築3Dモデリング、図面・パース作成などのデジタルスキル)
・ 秋学期「アルゴリズミックデザイン」(Pythonプログラミングによって建築を自動生成するためのデジタルスキル)
【主題】
本授業では、3Dモデリングソフトの「Rhinoceros」を用いて椅子を設計し、デジタル木材加工機の「Shopbot」を用いて実際に座ることのできる椅子を制作する。材料の制約条件は、三六判(910mm x 1820mm)の9mm厚の木合板1枚とする。
【目的】
本授業の目的は下記の2点である。
(1)基礎的なデザイン言語を学ぶこと
物のデザインとは、一般に考えられているように、単にオシャレでカッコイイものを作ることではないし、ましてや、猫をモチーフに物を作ることでもない。デザインとは、〈かち(価値)〉ある〈かたち(形)〉を作ることである。美は〈かち(価値)〉のひとつでしかないし、猫の〈かたち(形)〉と物の〈かち(価値)〉は直接結びつかない。実際には、考慮すべき〈かち(価値)〉はもっと多様である。構造強度や作り易さなどの物理的な側面、材料効率などのエネルギー的な側面、座り易さや持ち運び易さなどの機能的な側面、美や歴史的引用などの記号的な側面、そして金銭的な側面など、作り手は、多様な〈かち(価値)〉を同時に満たす統合的な〈かたち(形)〉を創造しなければならない。しかし、作り手が作ることができるのは〈かたち(形)〉のみである。〈かち(価値)〉を直接作ることはできないし、すべての使い手に〈かたち(形)〉の〈かち(価値)〉をその都度伝えることもできない。作り手は、〈かたち(形)〉をして、使い手の内部に〈かち(価値)〉を創発させなければならない。その意味で、デザインとは、〈かたち(形)〉を媒介(メディア)とした作り手と使い手とのコミュニケーションである。そのような基礎的なデザイン言語を学ぶことが1つ目の目的である。
(2)デジタルとアナログを自由に行き来できるようになること
アナログなものづくりを志す人の中には以外にもデジタル嫌いな人が少なくない。また逆に、デジタルが得意な人の中にはアナログなものづくりが苦手な人が少なからずいる。しかし、アナログとデジタルを二項対立的に捉えるような時代はとうに過ぎた。今はどららもできて当たり前の時代である。その当たり前をできるようになることが2つ目の目的である。具体的には下記のようなデジタルとアナログの特性を身をもって学ぶことになるだろう。
・デジタルではスケールレスだけど、アナログにはスケールがあって、小さすぎると精度が追いつかないし、大きすぎるとデジタルファブリケーション機器には加工範囲があるので部材を切り分けないといけない。
・デジタルでは厚みのない平面をつくれるけど、アナログなものには厚みがあって、その厚みを考慮しないと組み立てられない。
・デジタル上では繋がっているように見えても、アナログではジョイントを考えないとモノとモノは繋がってくれない。
・デジタルでは重力がないけど、アナログには重力があって、人が座ると壊れてしまう。
・デジタルではマテリアルの中身は均一だけど、アナログなマテリアルには方向性があって、力を掛ける方向によってマテリアルの挙動が変わる。
・デジタルでは完成した状態をいきなり作ることができるけど、アナログでは作る順番を考えないと、材料が干渉して入らなかったり、組み立てるときに部材が空中に浮いて組み立てられなかったりする。
以上2点の目的を達成するためには、椅子をデザインの対象にするのが丁度いい。単純すぎず複雑すぎず、小さすぎず大きすぎず、プロダクトと建築の間のような身体性や空間性を有するからである。
基礎的なデザイン言語を学びたい学生、デジタルとアナログを自由に行き来できるようになりたい学生、そして意欲あふれる学生の方の履修を期待します。