
本アカデミック・プロジェクト(AP)は、グローバル化の進行する現代社会において生じている文化的問題を人文学的アプローチで検討する。とりわけ、1)言語表現、2)思想、3)制度という三つの領域に焦点を当て、当該の問題が個々の主体に対して持ちうる意味を理論的角度から捉えるのと同時に、実践面での制度的解決の模索をも視野に入れる。
現代社会が抱える課題は多岐に渡るが、本APが着目するのは、たとえば文化横断の現象である。この現象は個人レベルでも集団レベルでも生じており、現れ方も多様である。表現主体と母語の関係であったり、移民とホスト社会のそれであったりする。このような状況が生み出す課題は、突き詰めれば、個人と集団・共同体の新たな関係をどのように構想・構築すべきかという点に帰着するだろう。
この課題が具体的に意識化される次元として、本APでは、文学などの言語表現、また哲学・思想のように、人文学的アプローチの採用が適切となる領域に注目する。方法論としては、説明(Erklären)よりもむしろ理解(Verstehen)の角度から、現代の社会・文化における主体的経験の意味を探ることになるだろう。
また、上述の経験は、グローバル化の進行に伴い、既存の社会的・政治的枠組みをはみ出す形で行なわれている。このことは、言語や国籍、移民受け入れなどをめぐり、具体的な制度面での再考を促しもする。このような実践的問題も本APの考察の対象に入る。