この講義の目的は、現代の政治哲学で議論されている主要な考えと争点を理解することである。政治哲学の特色は、狭義の政治学や政治社会学と違い、規範的アプローチを取ることにある。規範理論としての政治哲学は、とりわけ1971年にアメリカの政治哲学者ジョン・ロールズが『正義論』を出版して以来、現在に至るまで、めざましい発展を続けている。この現代政治哲学は、いったいどのような問題に関心を向け、どのような考えを提示しているのか。講義の第1部では、1970年代以降の政治哲学の争点を理解するための下地として、近代哲学に対してどのような批判が行われていたのかという点を確認する。第2部では、現代政治哲学の各立場を分かつ論点を捉えるために、自由という価値に関する三つの異なる捉え方を検討する。第3部では、ロールズの正義論を最初に取り上げ、その後で、彼のリベラリズムに対する三つの批判を順次考察する。第4部では、現代の社会状況・世界状況のなかで生じている具体的な問題に対して政治哲学がどのようにアプローチしているかという点を、文化、ジェンダー、グローバル正義という三つのテーマを取り上げて議論する。