
仕事をめぐる、個人と組織と社会の関係の未来を考える
この研究会は、可能な限り、1年を単位として活動内容をデザインしてもらいたいと思っています。インプットとアウトプットの往復を繰り返すことが、深い学びと新たな成果につながると考えているからです。
「仕事をめぐる、個人と組織と社会の関係の未来を考える」
そもそも人は何を目的として仕事をするのでしょうか。仕事をすることが当たり前だからでしょうか。生活に必要な収入を得るためでしょうか。自己実現のためでしょうか。仕事の目的が変わるとき、仕事をめぐる、個人と組織と社会の関係はどのように変わるでしょうか。
伝統的には、日本型雇用システムと呼ばれる、新卒一括採用、終身雇用、年功序列賃金・昇進制度、定年、企業内教育、企業別労働組合などの仕組みの中で、個人と組織はその関係性を構築してきました。そこでは、個人は組織に所属をして、多くの時間をそこで費やし、人としての成長を組織に委ね、人間関係の多くも組織につながるなど、文字通り、多くの個人は組織の中で生きてきました。
また、「日本の社会保障は、1960年代の高度経済成長期以降に、右肩上がりの経済成長と低失業率、正規雇用・終身雇用の男性労働者と専業主婦と子どもという核家族モデル、充実した企業の福利厚生、人々がつながりあった地域社会を背景として、国民皆保険・皆年金を中心として形作られ、これまで国民生活を支えてきた」(平成24年版厚生労働白書)とあるように、雇用保障という社会保障の一部そのものが企業によって支えられるとともに、保険料の徴収も職域と地域の2つのグループで行われるなど、企業は社会の機能を多くを担ってきました。企業で働く多くの個人は、所属する組織で階層化され、社会とつながってきました。
ところが近年、仕事をめぐる、個人と組織と社会の関係は、大きく変わってきました。終身雇用や年功序列という仕組みに乗らず、若いうちからキャリアチェンジをしながら、自らのキャリアをデザインする個人が増えました。兼業・副業という形で同時に複数の仕事を行う個人も増えました。企業の側も、終身雇用・年功序列という日本型雇用システムからの脱却を模索し始めました。こうした個人と組織の変化の背景には、世代の価値観の変化、企業の競争環境のグローバル化、ICT技術の進展等があり、なおかつ、互いの変化により、お互いの変化がさらに促される形で社会全体に浸透しつつあることからも、今後も継続することが考えられます。
今後、仕事をめぐる、個人と組織と社会の関係はどのように変化していくのでしょうか。本研究会では、このように多くの変数が能動的・受動的に同時進行で変化しながら、新たな均衡点へとシフトしつつある中で、個人の行動や組織の経営、社会の政策に対する研究を行うことを想定しています。研究会メンバーの興味関心に応じて、研究プロジェクトの問いを立てる予定ですが、例えば、以下のようなトピックを扱うことが考えられます。リボルビングドアのキャリアモデル、人的資本投資の開示指標、次世代の日本型タレントマネジメント、人材の流動性向上と最適なマッチングに求められる個人の学習と仕事の記録(Learning and Employment Records)のプラットフォーム、個人時代の社会保障のあり方など。新しい時代を創るSFC生とともに、仕事をめぐる、個人と組織と社会の関係の未来を探求していきたいと思います。