
認知科学は実験心理学とは異なる思想を持つ.自然科学的客観性を重視し過ぎるが故に認知をブラックボックスと扱った行動主義への批判と,コンピュータの出現に伴う認知への理解欲求から生まれた学問である.人間の知能は身体と言葉の相互作用により成り立つ.身体が進化すれば言葉も変わり,言葉が変われば身体も変わる.両者のインタラクションを科学的探究の俎上にのせることが認知科学の究極の目的である.そのためには過度な客観主義に縛られることなく,意識という主観的・内部観測的データにも眼を向ける必要がある.更に,現象を分析的に理解するだけではなく,認知と環境のインタラクションを構成的に創造し理解する方法論が必要である.本講義では最近の理論・実践を紹介し,新しい知能学問のあり方を議論する.