シラバス

科目名研究会B (1)

授業概要

学部・研究科
総合政策・環境情報学部
登録番号
37014
科目ソート
A1102
科目名
研究会B
分野
研究プロジェクト科目
単位
2単位
開講年度・学期
2024 春学期
K-Number
FPE-CO-05003-211-88
研究会テーマ

音楽神経科学(NeuroMusic)

開講年度・学期
2024 春学期
曜日・時限
火 3限
授業教員名
藤井 進也
実施形態
対面
授業で使う言語
日本語
開講場所
SFC
授業形態
※「授業形態」と「能動的学修形式」の対応についてはこちらをご覧ください。
講義, 演習, グループワーク
GIGAサティフィケート対象
非対象
研究会・来期の研究プロジェクトのテーマ予定

多感覚グルーヴ感創発の機序解明と音楽芸術表現への応用

ヒトは音楽を聴くと、手拍子したり、ステップしたり、ダンスしたり、喜びを感じて自然と身体を動かすことがある。このように音楽を聴いて、快感や運動意欲が生じる感覚は、「グルーヴ感」と呼ばれる。本研究プロジェクトでは、グルーヴ感を多感覚現象として捉え、グルーヴ感のあるリズム演奏の特徴を科学的に解明し、グルーヴリズム演奏を生成するシステムの開発・検証に取り組む。また、研究成果を応用し、新たな音楽芸術表現の創作を行う。本研究プロジェクトは、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(さきがけ)の採択課題である。本プロジェクトに取り組みたい人は、音楽リズムと身体運動に関する論文音楽リズムを知覚する脳に関する論文グルーヴ感と脳の予測性に関する論文リズム知覚同期の生物学的起源に関する論文音楽リズムの普遍性と多様性に関する論文藤井のグルーヴ総説論文JSTさきがけ生体多感覚システムHPを事前に熟読した上で、自分がどのような研究に具体的に関わりたいのかを明確にしておくことを奨める。



若者の生きづらさを解消し高いウェルビーイングを実現するメタケアシティ共創拠点

抑うつ、適応障害などの精神的不調や高い自殺率に見られるように、近年若者の生きづらさが大きな社会的問題となっている。現在の若者がこれから迎える100歳時代に向けて持続可能な高いウェルビーイング社会を実現するためには、社会生活が活発化する思春期・青年期から生きづらさを打破できる強靭な心(心理的レジリエンス)を持つことがますます求められる。本プロジェクトでは、生きづらさを感じる若者の心の課題を包括的に研究する新たな学術領域を構築する上で、音楽や芸術が持つ効用に着目する。音楽や芸術が人々の心身に与える影響や神経科学的メカニズムを科学的に解明し、そこから得られる知見を基に心理的レジリエンスを獲得するための画期的な解決策(科学的エビデンスに基づいた音楽・芸術コンテンツ)をメタバース上で提供することを目指す。本研究プロジェクトは、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)共創の場形成支援プログラムの採択課題である。本研究プロジェクトに取り組みたい人は、Mind1020Lab研究開発課題5のHPや、本プロジェクトで主要に用いる神経指標である聴性定常反応(ASSR)に関する論文ガンマオシレーションを軸にした統合失調症の病態解明と治療に関する論文を事前に熟読した上で、自分がどのような研究に具体的に関わりたいのかを明確にしておくことを奨める。



体性感覚・聴覚インタラクションに基づく運動支援プラットフォームの構築とパーキンソン病患者の歩行障害緩和のための活用

パーキンソン病(PD)患者の増加は他の疾患と比較して際立って急速であり、2040年には世界で1300万人に達すると推定されている。PD患者は、PDに特徴的な歩行障害(すくみ足、小刻み歩行、突進歩行など)に起因する転倒・転落を契機として寝たきりになることが多いため、PD患者の歩行障害緩和は社会的価値が非常に高い取り組みである。PD患者の歩行障害には、音楽リズムの聴覚刺激(Rhythmic Auditory Stimulation)によって症状が緩和されるという不思議な特徴がある。そこで本プロジェクトでは、スマートシューズによりPD患者の歩行をセンシングして、インタラクティブに音楽リズムをフィードバックすることにより、リズム聴覚刺激を介した運動支援プラットフォームを構築することを目指す。本研究プロジェクトは、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期/バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備の採択課題である。本研究プロジェクトに取り組みたい人は、ORPHE株式会社のスマートシューズのHPや、インタラクティヴなリズム聴覚刺激によりPD患者の歩行タイミングを改善した論文音楽リズム/ビート知覚の神経ネットワーク論文や、音楽リズムの知覚と協調に関する力学系モデルの論文を事前に熟読した上で、自分がどのような研究に具体的に関わりたいのかを明確にしておくことを奨める



乳児の泣き声にみる言語・音楽性の起源:深層学習と発達認知神経科学の融合

本研究プロジェクトでは、「泣くこと」が言語、音楽、社会性の発達的基盤である可能性を検証するため、深層学習(AI)の手法を用いることで、発達初期の乳児の泣き声に、これらの能力の学習に関わる音響特徴量が含まれるかどうかについて研究する。発達初期の泣き声の音響特徴による言語・社会性発達の個人差の予測や、泣き声の多様化に関わる神経メカニズムの理解、「泣くこと」が言語・音楽性の獲得に果たす役割の理解や、泣き声による発達障害のリスクの早期診断・支援の提案について探究する。本研究プロジェクトは、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究B の採択課題である。本プロジェクトは、東京大学大学院教育学研究科発達脳科学研究室との共同である。本研究プロジェクトに取り組みたい人は、東京大学大学院教育学研究科発達脳科学研究室HPや、藤井の赤ちゃんダンス論文赤ちゃんの泣き声に関する論文を事前に熟読した上で、自分がどのような研究に具体的に関わりたいのかを明確にしておくことを奨める



脳波計を用いたドラマーのビート知覚に関する研究: ドラマージストニアの脳内機序解明を目指して

動作特異性局所性ジストニア(Task-Specific Focal Dystonia: TSFD)は、不随意な筋肉収縮がある動作に関連して局所的に引き起こされる神経疾患である。TSFDは音楽家に多く見られるが、ドラマーを対象としたジストニア研究は世界的に見ても非常に限られており、ドラマージストニアの現状や発症要因、神経メカニズムには不明な点が多い。そこで本研究プロジェクトは、プロドラマーのジストニア発症の脳内メカニズムについて探究する。特に今季は、スタンフォード大学のTakako Fujioka 博士と共同で脳波計を用いたビート知覚研究に取り組む。本研究プロジェクトに取り組みたい人は、ドラマージストニアに関する藤井の対談記事や、ジストニア診療ガイドラインに加え、Fujioka博士のビート知覚とイメージ中の脳波活動に関する研究や、ManningとSchutzのビート知覚に関する論文などを熟読しておくことを奨める。


詳細

講義概要

NeuroMusic 研究会概要

我々の日常には、音楽が溢れている。では音楽とは何か、と問われたとき、科学的な知識に基づいてその真理を洞察できる人々はこの世にどれくらい存在するだろうか。我々の日常に当たり前のように存在する音楽。しかし我々は、音楽のことを未だよく知らない。NeuroMusic 研究会の主題は、音楽の「未知」を解き明かし、その本質に科学的に迫ることである。

近年、脳・神経科学の飛躍的な発展に伴い、音楽はヒトの脳や身体でどのように処理されているのか、その仕組みが徐々に明らかになってきた。得られた知見の中で、とても興味深いのは、我々が普段何気なく楽しんでいる音楽が、実は人類の文化・進化・発達の起源や、社会性や創造性、知覚、認知、運動、記憶、情動、学習など、ヒトという生物の存在そのものに非常に深く関わっている点である。なぜ、我々ヒトの脳や身体には、音楽に感動したり、癒されたり、踊ったり、歌ったり、演奏したり、音を楽しむ能力が備わっているのか。その理由を脳・神経科学の観点から解き明かすことは、人間の本質を探究することに他ならない。「音楽神経科学 (Neurosciences and Music: NeuroMusic)」は、音楽という環境情報がどのようにヒトの脳・神経系で処理され,どのようにして豊かでユニークなこころの状態を生み出すのか、その起源や原理を探究する学問である。音楽神経科学は、人間の本質や起源に迫りうる、大変心躍る科学研究分野である。

本研究会の目的は、「音楽神経科学(NeuroMusic)」をテーマに、謎に満ちたヒトの音楽性の脳内起源や原理を解き明かすことである。音楽とは一体何か、音楽サイエンス分野の開拓に取り組みたい人は、是非研究会の門を叩いてほしい。心から歓迎する。