
本講義は、社会疫学と行動経済学に基づいて、社会と健康の関わりを実証的なエビデンスとともに理解することを目的とする。講義の前半では、社会疫学の基礎的な概念と既存のエビデンスについて解説する。社会疫学とは、集団全体における疾病の分布や健康の決定要因について、遺伝や健康行動などの個人的な要因のみならず、環境や社会のありようまで広げて考える学問である。既存研究を理解するにあたって、因果推論の手法についても触れる。社会経済的状況やソーシャルキャピタルなど様々な「健康の社会的決定要因」について説明する。
講義の後半では、人々がなかなか健康的な行動をとれない理由について、行動経済学の観点から考察する。プロスペクト理論や異時点間選択モデルなどを通じて人々の意思決定プロセスを分析し、これがどのように健康行動に影響を与えるかを明らかにする。また、ナッジやインセンティブなど、行動経済学の知見を応用した介入の実例やそれぞれの長所と短所について解説し、集団の健康格差を縮めるための政策介入について検討する。