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このコースは、近年急成長している、確率コンピューティング分野の導入を行うことを目的としています。この分野は、記号的計算やニューラルネットワークを用いた確率モデルや推論の技術を組み合わせたものです。受講者は確率コンピューティングに関する幅広い応用例を知り、人工知能(AI)分野の課題を、生成モデルの確率的推論の中でどう扱うか考えます。さらに受講者はいくつかの推論方法を学び、確率モデルと他の機械学習の手法にどのような違いがあるのかも理解することができるようになります。
アメリカは日本にとって最も身近でもうすでに十分に知っていると思われがちな対象ですが、一方で誤解が放置されやすい対象でもあります。「アメリカ」といったときにそれは何を指すのでしょうか。メディア報道では現政権、特に外交当局の方針を指すことが多いですが、現実には連邦議会は大統領府と違う意思を持ちますし、議員の忠誠心は政党ではなく州にあります。さらにアメリカでは支持政党のみならず国民世論が、保守とリベラルに分極化しています。そこでのメディアの機能も無視できません。メディア自身が保守陣営とリベラル陣営に分かれて対立軸の増幅を演出するなか、1990年代以降2極化は激しさを増し、討議型民主主義が空虚化する危険も叫ばれています。アメリカにおける保守とリベラルとは思想であると同時に、コミュニティの地域性、人種およびエスニック起源、信仰などが半ば集団的に規定するアイデンティティであることも少なくありません。そこで本授業では、政治、外交、文化などの垣根を設けずにアメリカ理解に迫ります。
インテリジェンス・コミュニティについて論じる。インテリジェンス・コミュニティは「情報機関」や「諜報機関」と訳されるが、こうした訳語は必ずしも正確ではない。それは外交・安全保障における政策決定・政策デザインの素材となる情報プロダクト(インテリジェンス)を政府首脳に提供する組織であり、いわゆる諜報(スパイ)活動はそのきわめて小さな一部に過ぎない。米国のインテリジェンス・コミュニティの活動は、2001年の対米同時多発テロ(9.11)、2003年のイラク戦争においても大きな問題となり、改革が行われてきた。最近では、2021年の米軍アフガニスタン撤退もまたインテリジェンスの失敗だと議論されている。インテリジェンス・コミュニティの問題は日本外交とも無縁ではなく、今後いっそう重要性を増していくものである。
開講される曜日・時間帯・場所、履修の手続き等については、keio.jpのニュース(【総環】鶴岡工業高等専門学校、山形大学農学部設置の単位互換科目履修について)を確認するようにしてください。
本科目は山形大学農学部との単位互換科目です。シラバスの詳細は以下のサイトにアクセスし、「農学部」-「バイオサイエンスコース」-「68900 食品微生物学」からご確認ください。
http://www.yamagata-u.ac.jp/gakumu/syllabus/2021/home.htm
xSDG
この研究会は、実体としては蟹江研の活動を行います。春学期の継続で、SDGsについて3つ程度のグループに分かれ、様々な角度から研究を行います。
本講義では芸術と科学(もしくはアートとサイエンス)の本質、両者の関係、両者が作り出す新しい領域について学びます。
講義はレクチャ、ワークショップ、ゲスト講演から構成されます。
Computational Creativity - 人工知能と表現
_コンピュータなどの人工的なシステムを用いて、人間の創造性をどう拡張していくのか、発想の限界をどう超えるか。Computational Creativityはそうした問いについて、技術・思想・表現などの側面から多角的に考える研究分野です。_
本研究会では、Deep Learningに代表される人工知能技術の基礎を学ぶとともに、その表現分野(音楽、メディアアート、サウンドアート、グラフィック、ファッション、文学など)への応用を模索します。AIの技術面や表現の審美的な側面を扱うだけではなく、新しい技術が人間のあり方や社会にもたらす影響を、表現を通して批評的に考えることを試みます。
日々の研究会の活動は大きく3つに分かれています。
[グループ・プロジェクト]
現在、四つのグループ(音楽生成、映像表現、メディアアート、DJ)に分かれて、グループごとに研究と作品制作を行っています。グループごとに議論を進め、実際にプログラミングなどの手を動かしながら思索を深めていきます。
[個人プロジェクト]
個々のメンバーごとの興味に合わせて、学期内に完結するような小規模なプロジェクトを行うことで、個人の技術力・実装力を高めることを目指しています。
[輪読]
より広い視野で技術と社会の関係を考える力を高めるために、指定した課題図書を読むことを求めています。課題図書を読んだ上で研究会内で議論を行います。今学期の課題図書はリチャード・ドーキンスの「利己的な遺伝子」とケヴィン・ケリーの「テクニウム」です。
プリッカー賞をはじめとする多数の国際的な表彰を受けた槇文彦氏(1928-)は、長年にわたる設計活動とその作品について全世界から称賛される世界屈指の建築家です。我々のキャンパスの設計だけでなく、慶應義塾の多くの建物を手掛けられ、特に藤沢、三田、日吉の全ての図書館がその作品であることは象徴的です。日本でも建築学会賞を2回受賞し、東京体育館、幕張メッセ、横浜市庁舎などたくさんの作品を残されていますが、むしろ特筆すべきはその国際的な活躍と評価にあります。日本で設計活動を開始する以前からハーバード大学デザイン大学院にて教鞭を取り世界の建築界に幅広い交流ネットワークを持っていただけでなく、日本の建築思想を世界に紹介する実践的な理論家として認められていました。1960年代からメタボリストの一人として、建築設計作品と著作を通じて日本の建築文化を紹介し、江戸から続く日本の都市とその空間性をモダニズムの世界的潮流の中に位置付けたその思想は環境におけるローカリズムとグローバリズムの相克の観点から世界中の注目を集めました。ニューヨークWTC跡地、 MITメディアラボ、インド・ビハール博物館、シンガポール工科大学、アガ・カーン財団ロンドン本部、深セン世界文化センターなど、世界各地に地域と時代を象徴する建築物の設計者に招請されてきた事実が、何よりその高い評価を示しています。
慶應義塾大学SFC は槇文彦氏からの意向を受け、氏が所有・保管されている、スケッチ、図面、模型、写真、自身の著作原稿、刊行物や通信書簡などによる国際的な思想交流の軌跡などの貴重な資料ご寄贈を受け、将来にわたって内外の研究・教育活動に活用するために、収集整理・保管収蔵および展示やデータによる公開することを決めています。氏が設計したSFCの空間全体がその建築・都市デザインを見渡すメディアセンター4階を改修した「槇文彦アーカイブ・ルーム」をオープンし、慶應義塾の教育思想の体現をしてきた槇文彦氏の建築作品を世界中からの訪問客に展示して紹介するだけでなく、歴史的研究資料として、在学生はもちろん、世界中から利用されるデジタル・アーカイブ化を目指しています。資料の単なる画像データ化を超えて多角的で先端的なデジタル・コンテンツ化を目指して、慶應義塾大学アート・センター や慶應義塾ミュージアム・コモンズ 、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究センターとも連携をとっていく予定です。
この授業は、槇文彦氏の作品と足跡を通じてアーバニズムの国際的潮流や設計活動の歴史的な意義を理解すると同時に、建築設計を学ぶものが身につけるべき要素や応用可能な具体的知見が蓄積されている教材として、分析的な成果を作成すること自体を学びの機会にする授業です。建築におけるヒューマニズムのあり方を標榜した槇文彦氏の思想について、特に建築と都市デザインの学習と研究を目的にした学生にアーバニズムの国際的潮流と建築家・槇文彦の作品と思想の貴重な資料を保有する立場を活かした実践的な学習過程を提供します。
箱根山は40万年前頃から活動を開始した活火山で、その活発な火山活動は関東地方に大きな影響を及ぼした。関東ローム層はこの箱根山の火山灰によるものが多い。長年にわたる火山活動は、複雑な地形を形成し、豊かな生物相を育むことにもなった。本研究プロジェクトでは、神奈川県の自然環境を特徴付ける箱根地域の自然の成り立ちと生物相について学ぶことを目的とする。
本講義ではより実践的なデータ分析のスキルと経験を身に付けることを目的とする。
具体的には講義を通して以下の内容を学び身に付ける。
行動データの取得、集約、加工、可視化
データ分析とビジネス提案のプロセス
データサイエンス技術を活用した実践的な取り組み事例
グループワークを通したビジネスに直結するデータ分析の経験
高度な機械学習や統計モデルの利用は、現場でのデータ分析、機械学習の活用の中では一要素でしかなく、よりよく活用するためには、過去ビジネスの現場で積み重ねられてきた多くのナレッジの中で活かすことが求められる。
この一連のプロセスを本講義ではヒューリスティックコンピューティングと解釈し、機械学習やデータ分析を実際に活用する全体像について学ぶことを目的とする。
本講義で扱わないこと
先端的な機械学習モデル・統計モデルの説明、実装・利用方法
モデルの精度を向上させる方法
AIを活用したビジネス
This course aims to introduce the theory and practice of international relations and diplomacy, and the impacts in the Indo Pacific region. It will explore key international players and institutions. Major global challenges will be analysed: climate change; public health; migration and demographic change; populism. We will discuss some of the tools used to address these issues: trade and investment policies; aid and development; public diplomacy and soft power.
応用ミクロ計量経済学演習
この講義では、学生が研究テーマを決めて、応用ミクロ計量経済学の手法を用いたデータ解析を行い、政策提言を行うことを目的とします。
本講義では、Behavior (人間の行動) や Affective (情動やムードといった人間の内面状態) を扱うコンピューティングシステムについて議論します。同分野の先端的な研究について、その背景や概念、技術、構築手法、応用例、利活用や社会実装、課題などを議論します。実際にそのようなプログラムを作る課題を通じて実践的に学んだ後、学期末には2〜3人のミニプロジェクトを行います。
生命現象のモデル化とシミュレーション
生命の最大の特徴のひとつに動いていること、動きつづけることがあげられる。生命シス テムは、動くことによって環境と相互作用し、環境中に自らの存在を維持している。本プ ロジェクトでは、コンピュータシミュレーションを用いて、生命システムの動きを捉え、 その動作原理の理解に取り組む。履修者は、対象とする生命現象をひとつ選択し、細胞シ ミュレーション環境E-CELL上にモデル化し、シミュレーションを行う。得られた結果か ら、構築したモデルの妥当性、対象とした生命現象の動作原理を考察する。
コリアンスタディズ 発展1
本プロジェクトは、21年春に開講したコリアンスタディーズ(朝鮮語圏 地域研究)入門の発展編である。具体的には、①多様な学問領域の研究者(日韓)の最新の研究に触れ、研究動向を知るとともに議論をする、②表象文化としての韓国映画に現れた同時代の韓国社会の実像を把握し、自らの問題意識を設定し考察を行う、といった作業を通して、朝鮮語圏をアカデミックに捉えることの意義、視座をより高度なレベルで獲得する。さらには、それらを社会に発信する方法についても考え、実践する。
コリアンスタディズ 入門2
本プロジェクトはコリアンスタディーズ(朝鮮語圏 地域研究)の入門科目である。具体的には、①多様な学問領域の研究者(日韓)の最新の研究に触れ、研究動向を知るとともに議論をする、②表象文化としての韓国映画に現れた同時代の韓国社会の実像を把握し、自らの問題意識を設定し考察を行う、といった作業を通して、朝鮮語圏をアカデミックに捉えることの意義、視座を獲得する。
プロテオミクス研究の最新動向調査と考察
生命は複雑すぎて、その全体像を理解することは到底不可能だと思われていた。しかし21世紀に入り、ゲノムをはじめとする大量の生物情報が解析可能になったことから、ITを駆使することで生命を理解することが夢でなくなった。システム生物学は生物を統合的に理解することを目指す学問で、生命現象の本質に迫る重要な分野として近年注目を集めており、SFCは20年前からこの分野を開拓してきた世界的なパイオニアである。システム生物学の応用分野は医科学・地球環境・食品から生命の起源・進化の解明まで、無限に広がっている。
本研究プロジェクトでは、国内外のプロテオミクス研究の最新動向を調査して考察する。
プロジェクト期間中には、講義と演習形式でプロテオミクスの基礎知識の習得と最新動向調査を進める。活動を通して文献調査や論文読解のスキルを身につける。調査内容を要約しながら理解し、得られた知見を自身の研究に活かすためのプランについて考察する。
応用語用論:先端研究の遂行(オンラインで実施)
本特別研究プロジェクトは,「コミュニケーション能力とは何か」を解明するため,特に語用論的能力習得に焦点を置き,様々な切り口から学習者が語用論的能力を習得していくプロセスを明らかにすることを目的とする。本プロジェクトは,二名の教員によって構成される。通年の研究会担当の中浜と,応用語用論の研究で世界的に著名なアメリカミネソタ大学名誉教授のアンドリュー・コーヘン博士によって講義・演習を行う。コーヘン氏はこれまで数えきれないほどの著書や論文があり,名誉教授となられてから以降も講演で世界を飛び回っておられるが,今回zoomでの特別研究プロジェクトということで,共同での開催が可能になった。基本的には,日英両言語で行うが,コーヘン氏の講義・演習に関しては英語で行うため,中上級以上(TOEFL500点ほど)の英語能力のある学生の履修を推奨する。学部生の特プロではあるが,高度な内容を盛り込むため,一般学部生,GIGA生以外にも,大学院生(修士・博士)の履修を大いに推奨する。このセミナーでは,応用語用論の先端研究を取り扱う予定である。まず応用語用論の基盤構築を行い,様々な切り口からこれまでの先行研究を読み進め,先端研究を自ら開拓すべく,パイロット研究をデザインするところまでを本特別研究プロジェクトの目的とする。履修生は2021年10月31日までに先行研究の批判的レビュー,研究目的,研究のデザインまでをまとめたレポートを提出すること。なお,レポートは日本語もしくは英語で執筆すること。
新しい世界観の概念装置を組み立てる:ホワイトヘッド哲学を学び、アレグザンダー思想の理解を深める
本プロジェクトでは、クリストファー・アレグザンダーがしばしば参照する哲学者アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学について、文献読解を通じて理解を深めます。単にホワイトヘッドの哲学を理解するだけでなく、全体性、有機的秩序など、アレグザンダーに通じる概念を改めて深く理解する機会としたい。
アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド(1861-1947)の哲学がどういうものかは、『ホワイトヘッドの哲学』(中村昇, 講談社, 2007)の次の紹介がわかりやすい。
「われわれの世界は、つねに流動している。動いていないものは、なにひとつない。・・・生物、無生物のべつなく、つねに活発に変化していく。これが、わが宇宙の実相だ。ここを起点にしてホワイトヘッドは、すべてを説明していく。したがって、かれの宇宙には、生きていないものは存在しない。すべてが、一様に「生きて」活動している。だが、われわれも巻きこんでいる、このはてしない流動状態は、つかみどころがまったくないから、とりあえず、どこかに切れ目をいれなければならないだろう。
まず、これらは、闇雲に動いているわけではない。あるパターンが見てとれる。それぞれのスケールで、おなじようなパターンが繰りかえされているとホワイトヘッドは考えた。そして、つぎに、そうしたパターンをなす流動状態のそのつどの瞬間は、唯一無二のあり方で出現する。この世界では、ただの一度も、まったくおなじ状態など生じたことはない。つまり、一回だけの比類のない出来事が、おなじパターンで何度も反復されているというのが、わたしたちの住む、この宇宙のあり方なのだ。繰りかえされる間断なきパターンと、そのときどきのかけがえのない断面とによって、世界は成りたっているといえるだろう。この切り口からホワイトヘッドは出発する。
また、ホワイトヘッドの哲学には、堅固な個体は登場しない。部分的な個別の状態を最初に想定することは決してない。一番基底にあるのは、あくまでも創造活動なのだ。この世界は、たえず、あらたに創りつづけられている。だからといって、その背後に、創造する主体がいるわけではない。豊饒な創造の坩堝のなかに、あらゆる存在は、つねにすでに投げこまれている。「過程」(process)こそ、「実在」(reality)なのだ。
独立した個は存在しないのだから、この創造されつづけている世界は、べつべつの部分にはわかれない。すべての側面が密接に関係しあう。その関係の複雑で膨大な網は、もちろん、固定されたものではなく、たえまない流動状態のなかで、それ自体をダイナミックに変容させていく。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)
以上の説明を読むだけでも、クリストファー・アレグザンダーとの接点が感じられるだろう。実際、アレグザンダーは、彼の著書『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)で、何度もホワイトヘッドに言及し、自説との関係について語っている。
例えば、“全体性」と「センター」の理論”の章で、「全体性」の考え方の多くの文献のなかで「おそらく最も際立った議論」であるとして、ホワイトヘッドの『過程と実在』を紹介している。さらに、『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』の重要な概念である「センター」も、ホワイトヘッドの哲学に通じるという。
「すべての空間が「センター」を張り巡らしたようなシステムであるという考え方を最初に提唱したのは、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドであり、・・・ホワイトヘッドは、彼が「有機体」と呼んでいる連結した存在で構成されるシステムを提案しました。彼の考えでは、実在するすべてのものは空間的に存在する入れ子状で重なり合った「有機体」のシステムとして理解されるものだということです。-----私が思うに、このホワイトヘッドの有機体は、私がこの本で「センター」として説明している実態とまさしく同様のものではないかと思うのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)
また、『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』では、「生命」が重要な概念として論じられているが、この「生命」というのはいわゆる「生物」のことではなく、無生物にも見られる「いきいき」とした質のことである。この「生命」の考え方もホワイトヘッドに通じているという。
「この概念の中では、「生命」とは何がしかの形ですべての事象、建築物に存在する、日々の実用的な生活の中にでもあるものなのです。・・・この考え方の本質は、古典的です。新しいことは、既存の科学的な思考を用いた構造的な形式という概念で説明できるということと、理解できるという点だけです。・・・同じような視点は、歴史を紐解くと、仏教の考え方やアメリカンインディアンの世界観の中にも表れています。仏教の世界観では、すべてのものの中には「生命」があると示されており、無数の経典によってそのことが記されています。・・・同じような考え方はアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学や書物の中でも述べられています。・・・ホワイトヘッド氏の考え方では、「生命」の無いものは無いのです。「生命」の可能性は事物に本来備わっているのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)
ここで、東洋の思想との関わりに触れているのも興味深い。昨年の夏の特別研究プロジェクトでは、「新しい学問をつくる:西洋と東洋の知を融合させた、創造実践の学問を構想する」として、東洋哲学についての理解を深めたが、今年は、西洋(ホワイトヘッド)の側からの接続を試みることになりそうだ。
さらに、アレグザンダーは、近代の機械的な世界観からの脱却を唱えるが、これも、ホワイトヘッドの考えと重なる。
「ここ300年のあいだ、機械主義的な世界観によって私たち自身が「自己」から切り離されてしまいました。私たちは、強力で極めて正確な世界観を手にしています。しかし、その概念には「自分自身」の存在意義を明らかにするはっきりとした説明がないのです。これこそホワイトヘッドによって主張された有名な「自然からの乖離」現象なのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)
以上のように、クリストファー・アレグザンダーの思想をさらに深く理解するために、ホワイトヘッドについて理解することは重要であることがわかる。
しかしながら、そこには大きな壁が立ちはだかっている。それは、ホワイトヘッドの哲学は「このうえなく難解」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)だという点である。中村昇は『ホワイトヘッドの哲学』で、その難解さを、次のように表現している。
「ホワイトヘッドは難解だといわれる。わたしもたしかにそう思う。なんの因果か、哲学を生業としているから、多少の難しさには慣れっこのはずだが、ホワイトヘッドの難解さは、どうにも手のつけようがない。群を抜いている。特に『過程と実在』は、最初読んだときは、まったく取りつく島がなかった。なにをいっているのかさっぱりわからない。しかも具体的な話をほとんどしないから、手がかりもない。本当にこまった。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)
こう言われてしまうと怯んでしまうかもしれないが、まったく望みがないわけではなさそうだ。中村は、さらに続ける。
「しかしよくよく読みすすめると、ホワイトヘッドの難しさは、この哲学者のせいではないことに気づく。ようするに、ホワイトヘッドが難解なのではなく、〈この世界そのもの〉が難解なのだ。・・・この状態をホワイトヘッドは、愚直にも真正面から描き切ろうとしている。これが、かれの本を難しくしている一番の理由だと思う。
そんなホワイトヘッドの本でも、よくしたもので、何度もなんども読んでいくうちに、少しずつ霧がはれてくる。なんとなくわかってくるのだ。この世界も、長く住みつき、おおくの経験をつむと、いろいろわかってくる。あれとおなじだ。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)
このようなわけで、ホワイトヘッドを一人で学ぶのはきわめて難しいだろう。そこで、本プロジェクトでは、みんなで挑戦してみよう、ということなのだ。しかも、アレグザンダーの思想に慣れ親しんでいる僕らならば、もしかしたら、それを糸口として理解への道がひらけるかもしれない。
なお、あらかじめ、断っておくが本プロジェクトの担当者である僕(井庭)は、ホワイトヘッドの研究者ではないし、特段理解が深いわけでもない。そのため、僕が解説したり、質問に答えるということは期待しないでほしい。僕を含む参加者全員で、難解なホワイトヘッドの哲学に挑戦する、そういうつもりで本プロジェクトに参加してほしい。
そのような難しい闘いではあるが、多少なりの勝算はある(あくまでも多少であり、また保証はないが)。それは、僕が普段、難解な本を読むときのプロセスや技を参加者に共有し、それを踏まえてみんなで取り組むということだ。ふだん僕は、難解な哲学書を読むときに、手に入るあらゆる入門書・解説書を片っ端から読みまくって、そこから本丸の哲学書にアプローチする。そうすることで、読み解き方を自分なりにつかみながら、自分で読みこなすことができるようになる。そのとき、僕は一人で20〜30冊くらい読むことになるわけであるが、それはなかなかにハードなことなので、それをそのままみんなにやってもらうというのは、非現実的だろう。そこで、本プロジェクトは、それを参加メンバーで分担しあうというやり方で行う。つまり、一人ですべてやる代わりに、「分担して読んでくる」+「紹介しあい話しあう」ことで、全員で理解を深めていくコラボレーションで取り組むのである。
最後に強調しておきたいのは、本プロジェクトで目指すことは、ホワイトヘッドの哲学を単に理解することではなく、その概念装置を通して、世界を見る(認識する)ことができるようになることであるということだ。また、ホワイトヘッドの哲学を理解することで、アレグザンダーの概念装置をより精密に理解し使いこなせるようになることである。
このような読書による概念装置の獲得ということについて、内田義彦が『読書と社会科学』で明解に語っているので、いくつか引用しておきたい。まず、概念装置とはどいうものかについて。
「概念装置を脳中に組み立て、それを使ってものを見る。・・・概念装置を使うことによって、肉眼では見えないいろいろの事柄がこの眼に見えてくる。それも、ある程度ながら-----用いられた概念装置にかかわりのある限りにおいては-----否応なく、好みを越えて、否定しようにも否定しがたく見せつけられるかたちで見えてくるんで、その限りだれでもが同じ地盤に立つ。同時に先人の発見の伝達と蓄積が可能になってきます。」(内田義彦『読書と社会科学』)
本を読むときに、単にそこに書いてあることを理解する・知る、というのではなく、認識の手段としての概念装置を獲得するために読むという読み方について、次のように述べている。
「本を読むことで、認識の手段としての概念装置を獲得する。これがかなめです。それも、-----概念装置が自分の眼に代わってものを見る手段に化けちゃわないで、自分の眼そのもののはたらきを補佐する手段として役立ちうるようなかたちで獲得することがかなめですから------認識手段としての概念装置を習うについても、単にこれをを覚える、配線図のリプリントみたいに筋がきを頭にたたきこんじゃ駄目です。組み立てながら、たえず自分の眼をはたらかせてその効果のほどを験してみながら、組み立て方・使い方を体得する。そういう操作をすることで、はじめて既成の概念装置も、自前の概念装置として役立ちましょう。」(内田義彦『読書と社会科学』)
そして、このように認識の手段としての概念装置を獲得するためには、単に受け入れるだけでなく、読んで、自分のなかでその概念装置を組み立て直す必要があると言う。これは僕もとても重要なことだと実感することだ。
「概念装置は、同じ自分の眼を補佐する装置であっても、物的装置とちがって、身体の外部ではなく内部にあるもの、自分の脳中に組み立てるものです。・・・一人一人、苦労して組立て作業をやらなければなりません。製品を調達するのではなく、自己製作をする。新しい概念装置を自分で開発する場合はもとよりのことですが、先人が作り上げて学界の共有財産になっている既製の概念装置をそのまま使う場合でも、それを自分の認識手段として使いこなすためには、組立て作業それ自体を、一、一この眼を働かせながらキチンと、ていねいにやって、自家薬籠中のものとしておかなければなりません。でないと、その概念装置は、知ってはいても、自分のこの眼でものを見る認識手段としては、役に立たない。その意味では、既製の概念装置の修得も、真にそれを自分の概念装置として獲得するためには、新しい概念装置の開発とまったく同じ種類の自主性と労苦がいる、ということを強調しておきたいと思います。概念装置はすべて、新旧を問わず自前でやらなければならない。で、心血をそそいで組立て作業をやる。やらざるを得ない。」(内田義彦『読書と社会科学』)
このように、独特の世界観をもつ哲学の本を読むということは、とても創造的な営みなのである。本プロジェクトでは、このような概念装置の組み立てという体験を、みんなで実践していければと思っている。とても大変ではあるが、やりがいのある、そんな「夏学期」をお楽しみに!
【入門編の文献】(全員共通)
・『ホワイトヘッドの哲学』(中村 昇, 講談社, 2007)
・『読書と社会科学』(内田 義彦, 岩波書店, 1985)
・『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)
【助走編の文献】(下記のなかの1冊をグループで担当し、みんなに紹介)
・『ホワイトヘッド『過程と実在』:生命の躍動的前進を描く「有機体の哲学」 (哲学書概説シリーズ) 』(山本 誠作, 晃洋書房, 2011)
・『コスモロジーの哲学:ホワイトヘッドの視座』(チャールズ ハーツホーン, クレイトン ピーデン, 文化書房博文社, 1998)
・『ホワイトヘッド:有機体の哲学』(田中 裕, 講談社, 1998)
・『ホワイトヘッド:秩序への冒険』(ポール・グリムリー・クンツ, 紀伊國屋書店, 1991)
・『ホワイトヘッドへの招待:理解のために』(ヴィクター・ロー, 松籟社, 1982)
・『具体性の哲学:ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』(森 元斎, 以文社, 2015)
・『連続と断絶:ホワイトヘッドの哲学』(飯盛 元章, 人文書院, 2020)
・『日常の冒険:ホワイトヘッド、経験の宇宙へ』(佐藤陽祐, 春風社, 2021)
・『ホワイトヘッドと現代:有機体的世界観の構想』(山本 誠作, 法蔵館, 1991)
・『ホワイトヘッドと西田哲学の〈あいだ〉:仏教的キリスト教哲学の構想』(延原 時行, 法蔵館, 2001)
【本丸編の文献】(全員共通:訳が2種類と英語原著があるので、それらを複合的に使用して理解する)
・『過程と実在〈1〉コスモロジーへの試論』(A.N.ホワイトヘッド, 平林 康之 訳, みすず書房, 1981)
・『過程と実在〈2〉コスモロジーへの試論』(A.N.ホワイトヘッド, 平林 康之 訳, みすず書房, 1983)
・『ホワイトヘッド著作集 第10巻 過程と実在 (上)』(A.N.ホワイトヘッド, 山本 誠作 訳, 松籟社, 1984)
・『ホワイトヘッド著作集 第11巻 過程と実在 (下)』(A.N.ホワイトヘッド, 山本 誠作 訳, 松籟社, 1985)
・"Process and Reality"(Alfred North Whitehead, Free Press, 1979)
本科目は、ASEANパートナー大学と慶應義塾大学の共同開催による国内フィールドワークの科目である。国内で実施されるフィールドワークに参加し、“EBAパースペクティブ”のサティフィケート取得を目指す学生がフィールドワークに参加した次の学期に履修する。 SFCでは、ASEAN2回、国内2回合計4回までを単位を取得する科目として組みこむことができるよう、4科目のフィールドワーク科目が設置されている。(ただし、新型コロナ感染症の影響を受けて、ASEANフィールドワークは休講中。)
本科目は、ASEANパートナー大学と慶應義塾大学の共同開催による国内フィールドワークの科目である。国内で実施されるフィールドワークに参加し、“EBAパースペクティブ”のサティフィケート取得を目指す学生がフィールドワークに参加した次の学期に履修する。 SFCでは、ASEAN2回、国内2回合計4回までを単位を取得する科目として組みこむことができるよう、4科目のフィールドワーク科目が設置されている。(ただし、新型コロナ感染症の影響を受けて、ASEANフィールドワークは休講中。)
RNAは,高次の生命現象を複雑かつ緻密に制御する分子であることが知られている.今回の夏プロでは,RNAや関連する生体分子が自身の研究テーマにどう関わっているのか,生物と計算機の両方で実験を通じて調査する事で,生命現象に関して更なる理解を深めることを目的とする.具体的には,ハロモナス属細菌の様々な環境における遺伝子群又は遺伝子発現制御、テロメアRNAとテロメア関連タンパク質がテロメア長を維持するメカニズム、特定な塩基配列を検出する技術の開発、超反復配列を持った長鎖RNAをin vitro合成する方法の開発に関する研究を行う.