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それぞれの環境下におけるライフスキル獲得を目指したスポーツコーチングの実践
スポーツ現場における悩みを解決する力は、より身近な日常生活の悩みの解決に繋がる。本研究会では、選手・コーチなど様々な立場からスポーツに関わる学生が感じた悩みとそれを解決するスキルに関して理論と実践を融合させ、ライフスキル及びコーチングの観点から研究を深める。特別プロジェクトは特にこれまで実施したグループ研究の取り組みを深め、それらの成果を外部へと共有を行い評価する。
応用ミクロ計量経済学演習
この講義では、学生が研究テーマを決めて、応用ミクロ計量経済学の手法を用いたデータ解析を行い、政策提言を行うことを目的とします。
非モデル生物のトランスクリプトーム解析
非モデル生物のトランスクリプトーム解析
モデル生物にこだわらない特定の生命現象の解析の検証
SFC内に存在するWet-Bio棟では、遺伝子の導入や生物の顕微鏡観察ならびに小型水棲生物の飼育など、様々な実験が可能である。参加者は普段から特定の生物の有する生命現象に興味を抱いている者になる。まず各人がそれぞれの研究内容を全体で共有した上で、その疑問点や解決方策を討議し、その前提の下、サーベイをするとすれば何が考えられるかを討議する。各人はそれに従い、実験を実施する場合の綿密な計画をたてて、その進展内容を発表する。
スポーツがコミュニティ形成に果たす役割について
本プロジェクトは、インタビュー調査を通じ、様々なバッググラウンドを持つ⼈々と接することで、社会課題の発⾒を⾏う。そして、グループでのディスカッションや実務家からのアドバイスを頂くことで、多様なアイデアや発想を受け⼊れ、既存のルールを変化させたり、1からルールを作り出すといった社会実装に必要なアイデアの創出から新規プロジェクトの⽴案、実⾏までの⼀連のプロセスを実践を通して学ぶ。
気圧などの気象変数の空間非一様性の観測
気圧や気温、湿度、風速・風向などの気象変数は、空間方向に大きく変動している。例えば、同じ神奈川県でも沿岸部は日夜の気温差が大きい一方で、山間部は夜に気温が低くなることもある。これはさらに小さいスケールでも同様で、湘南台からSFCに行く間にも、気象変数の値は、時空間的に変化する。しかし、天気予報に主に用いられる気象観測データは、空間方向に数十kmごとの観測点の値であり、最新の天気予報モデルの解像度が2kmであることを踏まえると、十分な解像度とは言えない。そこで、本特別プロジェクトは、気象変数が空間的にどの程度ばらつくのかを、神奈川県を中心に複数の地点で測定し、pythonによって地図上に描画することで明らかにする。
児童虐待による死亡事例の検証報告書の輪読を実施し、具体のケースにおいて、なぜ児童が死に至ったのか、何がどう違っていれば状況を変えられたのか、といった視点から、現行の法制度や連携の仕組み、あり方、その他の児童虐待対策について研究する。
ソーシャルマーケティングの実践研究:社会イノベーションのプロダクト開発
主に、企業経営において、その理論や発想、手法を発展させてきたマーケティングであるが、現在、社会的領域や公共・非営利組織の活動領域においても、その理論や発想、手法が活用されるようになっている。例えば、非営利組織や行政、病院、学校などが活動する際に、その実現を目指す使命や価値を、より効果的・かつ効率的に実現できるよう、企業経営を通じて培われたマーケティングの思想やノウハウ、技術を活用することが行われ、また、営利企業の活動においても、「企業の社会的責任」「社会との価値共創」の観点から、企業活動を評価し、その持続的な活動基盤の構築が行われている。こういったマーケティングの動きは「ソーシャルマーケティング」と総称され、様々な実践と理論の蓄積が進んでいる。この特別研究プロジェクトでは、ソーシャルマーケティングの基本的なコンセプトや発想、手法、変遷などを学んだ学生が、協力関係にある行政機関や企業、社会福祉法人による支援のもと、様々な調査・研究・開発活動などを行いながら、具体的なプロダクト開発に取り組む。
メカトロニクス設計スキルの高度化
ArduinoやProcessingを使ってインタラクティブな物体をプロトタイピングできる人を対象として、工作機械を使った試作品の設計および製作を実現できるスキルとして、3D CAD、プリント基板の試作、モータの高度な制御、を身につける。前半には基本的なスキルを身につけ、後半にはより高度なスキルを身につけることを目標とする。
各種環境下での人間の視覚と行動に関する研究
各種環境下における人間の基本的な視覚的行動特性について検証するための、研究に必要な基礎的知識を身に付けることを目的とする。今回は特に、「ヘルスケア」「eSports」「ハイパフォーマンス」「知覚」「ドライビング」、「カラーコンタクトレンズ」「野球」をテーマに、各グループに分かれて研究を進める。授業では現状分析、理論背景の把握、研究条件の立案、実験の構想案、期待される成果の検討、最終成果発表および講評を行う。
裁判所による判決・決定に至るまでの手続を詳細に検討することで、現代社会における司法の役割に対する理解を深める。
日本では近年、ワンオペ育児・家事やイクメン、働き方改革といった、家族の生産・再生産機能に関連する諸問題やその解決方法がさかんに議論されています。
研究会「近代家族を再考する」ではこれまで、家族をテーマにした家族社会学や社会政策学、歴史学などの分野の文献を輪読してきましたが、履修者からはしばしば「経験がないのでイメージが湧かない」といった声が聞かれます。
そこで本特別研究プロジェクトでは、履修者がそう遠くない未来に直面する可能性のある「女性の働き方」「妊娠・出産」「男性の育児休業取得」について、3名のゲストスピーカーをお招きして関連する制度・政策の概要やご自身の経験談を伺い、文献のみからでは把握できない実態について学び、未来予想図を描くことを課題とします。
本科目は、ASEANパートナー大学と慶應義塾大学の共同開催による国内フィールドワークの科目である。国内で実施されるフィールドワークに参加し、“EBAパースペクティブ”のサティフィケート取得を目指す学生がフィールドワークに参加した次の学期に履修する。 SFCでは、ASEAN2回、国内2回合計4回までを単位を取得する科目として組みこむことができるよう、4科目のフィールドワーク科目が設置されている。(ただし、新型コロナ感染症の影響を受けて、ASEANフィールドワークは休講中。)
ビジネスモデル手法による課題解決
21年度春学期の上山研究会で行ったプロジェクトの成果をさらに深め、デジタル化、パンデミック等の時代洞察に基づく公的組織と企業のビジネスモデルをまとめる
微生物バイオインフォマティクス
近年の生物学的データの爆発的増加により、従来の仮説検証型の科学に加えて、データ駆動型(仮説生成型)の生命科学が可能になった。このような複雑で大規模な生物学的データの解析には生物統計学・生物情報学(バイオインフォマティクス)のスキルが必須である。この科目では、大規模データからロバストで再現可能な知見を得るための実践的なデータスキルを習得する。履修者は、オープンソースのツール(Unixシェル、R/RStudio)を用いて、生物統計情報学の課題に取り組む。あらゆる分野の学生が、生物統計情報学的手法を応用して、独自の分野(生物学、マテリアル、建築・都市デザイン、気象、社会科学など)の問題解決に取り組む。例えば、土壌や人工環境(地下鉄の駅、バス停、学校、病院、国際宇宙ステーションなど)におけるマイクロバイオーム・データを用いて、微生物群集の分類学的・機能的組成、薬剤耐性、プラスミドや(新型コロナウイルスを含む)ウイルスなどの可動性遺伝因子を調査し、サンプルの微生物群集構造に影響を与える共変量(都市、人口密度、建物表面の種類と材料、気候、経済的・社会的要因)を同定する。分子進化解析では、抗菌薬耐性遺伝子と一本鎖DNA結合タンパク質(SSBP)をコードする遺伝子の公共データベースの配列を比較し、保存領域(モチーフ)の同定と系統樹の推定を行う。
持続可能な食料システム実現を目指す食品企業の新規プロジェクト戦略に関する研究
食料システムの視点で捉えて、その持続性の確保を世界的な共通の課題として国連食料サミットが開催される。食品企業は、今後のあるべき姿を実現するためにどのような事業を展開していくべきかを考えなければならない。本研究プロジェクトでは、持続可能な食料システムを構築するために食品企業が取り組むべき事業について、ワークショップを通して議論する。
おにぎりから始まる日本ふるさと物語ーSDG’sを切り口に国内越境での協働を実現するー
SDG’sの視点から、食文化において日本人にとって身近なおにぎりを切り口に、その歴史、普及、物流、地域性、世界進出までを切り口に「ふるさと」とは何か、その「ふるさと」における地方創生とは何をもって地方創生というのかを議論し、当事者としてどのように「ふるさと」に取り組むことができるのかを議論し、アクションプランを策定する。本プロジェクトにおいては、議論から始まり、日本の各地の市町村の価値を掘り下げ、あぶりだし、小中高大学生の視点からのSDG’sの再定義を越境型交流を通して行う。対象とする「ふるさと」は、大学生の履修者の郷里に加え、オンラインで鹿児島県、山口県、熊本県、岡山県、広島県、神奈川県、東京都、長野県、秋田県の小中高校生を迎える。本テーマに基づいた小中高生との4日間のセッションをプロジェクト期間中に開催し、その企画・運営・見込まれる成果までを大学生が本特別研究プロジェクト内で、担当教員の指導のもと手がける。大学生は状況が許せば未来創造塾βビレッジに宿泊して、オンラインで小中高生を迎える。もし宿泊がかなわない場合は、βビレッジに期間中通学しての履修とする。万が一、コロナ禍により、非常事態宣言中同様の状況が続く場合は、100%オンラインに切り替える。この判断は、7月中旬にその授業形態を判断し、履修者に周知する。
スマートセンシング演習
実空間や人から画像や音声、加速度などのセンサデータを獲得して知的に処理するソフトウエアシステムを構築し、評価し、論文を執筆します。
夏休みマレー・インドネシア語ウィーク
コロナの影響により、マレー・インドネシア語も、オンラインでの授業を強いられ、また毎年の長期休暇に実施してきた海外研修が実施できない状況が続いています。本特別研究プロジェクトは、夏休み最初の1週間を使い、普段会えない皆さんと対面の機会を作り、ワークショップ形式でインドネシアの文化を体験し学びつつ、語学のスキルアップを目指します。
本プロジェクトでは,運動や感覚の生理学・神経生理学に関連した世界的に意義のある論文の方法論や知見を共有し、新しい研究アイディアを短期間でまとめあげ、これを実行するための研究環境の実装にまで取り組みます.前半は文献レビューから研究の本質をとらえることをめざし,後半はこのなかからいくつかのMatlabを用いた解析の手法の構築と、解析されたデータの生理学的解釈をめざす.なお,後半はオンラインとオンサイトのハイブリット形式で進めていく.
担当者の研究会では、計量経済学の理論的な問題を扱っているが、時間の都合上、演習にあまり時間を割くことができていない。このプロジェクトでは演習を主とすることにより、これまでに学んだモデル・手法を深く理解し、その応用可能性について履修者が考え、自分の研究へとつなげることの手助けをすることを目的とする。特に今回はこれまで使用してきたMATLABに加え、EVIEWS, STATAといった、コーディングに時間をとられないパッケージを利用することで、応用に重点を置く。応用に用いるモデルは主にVARである。予測、分解などを用い、各自の関心に合わせて金融市場、マクロ経済などを分析する。
航空安全に学ぶ危機管理とその応用
近年の自然災害の激甚化や頻発化を踏まえ,組織の危機管理をどのように捉えればいいか,そのために構成員個々人はどのようなスキルを身につければいいのかを,航空安全から学ぶ.得られた知見を整理し,特定の組織の課題を見つけ,その解決策を検討して提示するまでを行う.
未来創造塾βビレッジの木材置き場の製作
未来創造塾βビレッジの木材置き場を実際に製作することを通して、建築の建設プロセスを身を以て学ぶことを目的としています。具体的には基礎、木造軸組、屋根の仕組みと建設方法について学びます。
すべてβビレッジの外部での作業になります。学内の使用許可が下りない場合は内容を変更することがありえます。
新しい世界観の概念装置を組み立てる:ホワイトヘッド哲学を学び、アレグザンダー思想の理解を深める
本プロジェクトでは、クリストファー・アレグザンダーがしばしば参照する哲学者アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学について、文献読解を通じて理解を深めます。単にホワイトヘッドの哲学を理解するだけでなく、全体性、有機的秩序など、アレグザンダーに通じる概念を改めて深く理解する機会としたい。
アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド(1861-1947)の哲学がどういうものかは、『ホワイトヘッドの哲学』(中村昇, 講談社, 2007)の次の紹介がわかりやすい。
「われわれの世界は、つねに流動している。動いていないものは、なにひとつない。・・・生物、無生物のべつなく、つねに活発に変化していく。これが、わが宇宙の実相だ。ここを起点にしてホワイトヘッドは、すべてを説明していく。したがって、かれの宇宙には、生きていないものは存在しない。すべてが、一様に「生きて」活動している。だが、われわれも巻きこんでいる、このはてしない流動状態は、つかみどころがまったくないから、とりあえず、どこかに切れ目をいれなければならないだろう。
まず、これらは、闇雲に動いているわけではない。あるパターンが見てとれる。それぞれのスケールで、おなじようなパターンが繰りかえされているとホワイトヘッドは考えた。そして、つぎに、そうしたパターンをなす流動状態のそのつどの瞬間は、唯一無二のあり方で出現する。この世界では、ただの一度も、まったくおなじ状態など生じたことはない。つまり、一回だけの比類のない出来事が、おなじパターンで何度も反復されているというのが、わたしたちの住む、この宇宙のあり方なのだ。繰りかえされる間断なきパターンと、そのときどきのかけがえのない断面とによって、世界は成りたっているといえるだろう。この切り口からホワイトヘッドは出発する。
また、ホワイトヘッドの哲学には、堅固な個体は登場しない。部分的な個別の状態を最初に想定することは決してない。一番基底にあるのは、あくまでも創造活動なのだ。この世界は、たえず、あらたに創りつづけられている。だからといって、その背後に、創造する主体がいるわけではない。豊饒な創造の坩堝のなかに、あらゆる存在は、つねにすでに投げこまれている。「過程」(process)こそ、「実在」(reality)なのだ。
独立した個は存在しないのだから、この創造されつづけている世界は、べつべつの部分にはわかれない。すべての側面が密接に関係しあう。その関係の複雑で膨大な網は、もちろん、固定されたものではなく、たえまない流動状態のなかで、それ自体をダイナミックに変容させていく。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)
以上の説明を読むだけでも、クリストファー・アレグザンダーとの接点が感じられるだろう。実際、アレグザンダーは、彼の著書『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)で、何度もホワイトヘッドに言及し、自説との関係について語っている。
例えば、“全体性」と「センター」の理論”の章で、「全体性」の考え方の多くの文献のなかで「おそらく最も際立った議論」であるとして、ホワイトヘッドの『過程と実在』を紹介している。さらに、『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』の重要な概念である「センター」も、ホワイトヘッドの哲学に通じるという。
「すべての空間が「センター」を張り巡らしたようなシステムであるという考え方を最初に提唱したのは、アルフレッド・ノース・ホワイトヘッドであり、・・・ホワイトヘッドは、彼が「有機体」と呼んでいる連結した存在で構成されるシステムを提案しました。彼の考えでは、実在するすべてのものは空間的に存在する入れ子状で重なり合った「有機体」のシステムとして理解されるものだということです。-----私が思うに、このホワイトヘッドの有機体は、私がこの本で「センター」として説明している実態とまさしく同様のものではないかと思うのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)
また、『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』では、「生命」が重要な概念として論じられているが、この「生命」というのはいわゆる「生物」のことではなく、無生物にも見られる「いきいき」とした質のことである。この「生命」の考え方もホワイトヘッドに通じているという。
「この概念の中では、「生命」とは何がしかの形ですべての事象、建築物に存在する、日々の実用的な生活の中にでもあるものなのです。・・・この考え方の本質は、古典的です。新しいことは、既存の科学的な思考を用いた構造的な形式という概念で説明できるということと、理解できるという点だけです。・・・同じような視点は、歴史を紐解くと、仏教の考え方やアメリカンインディアンの世界観の中にも表れています。仏教の世界観では、すべてのものの中には「生命」があると示されており、無数の経典によってそのことが記されています。・・・同じような考え方はアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの哲学や書物の中でも述べられています。・・・ホワイトヘッド氏の考え方では、「生命」の無いものは無いのです。「生命」の可能性は事物に本来備わっているのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)
ここで、東洋の思想との関わりに触れているのも興味深い。昨年の夏の特別研究プロジェクトでは、「新しい学問をつくる:西洋と東洋の知を融合させた、創造実践の学問を構想する」として、東洋哲学についての理解を深めたが、今年は、西洋(ホワイトヘッド)の側からの接続を試みることになりそうだ。
さらに、アレグザンダーは、近代の機械的な世界観からの脱却を唱えるが、これも、ホワイトヘッドの考えと重なる。
「ここ300年のあいだ、機械主義的な世界観によって私たち自身が「自己」から切り離されてしまいました。私たちは、強力で極めて正確な世界観を手にしています。しかし、その概念には「自分自身」の存在意義を明らかにするはっきりとした説明がないのです。これこそホワイトヘッドによって主張された有名な「自然からの乖離」現象なのです。」(アレグザンダー『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー』)
以上のように、クリストファー・アレグザンダーの思想をさらに深く理解するために、ホワイトヘッドについて理解することは重要であることがわかる。
しかしながら、そこには大きな壁が立ちはだかっている。それは、ホワイトヘッドの哲学は「このうえなく難解」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)だという点である。中村昇は『ホワイトヘッドの哲学』で、その難解さを、次のように表現している。
「ホワイトヘッドは難解だといわれる。わたしもたしかにそう思う。なんの因果か、哲学を生業としているから、多少の難しさには慣れっこのはずだが、ホワイトヘッドの難解さは、どうにも手のつけようがない。群を抜いている。特に『過程と実在』は、最初読んだときは、まったく取りつく島がなかった。なにをいっているのかさっぱりわからない。しかも具体的な話をほとんどしないから、手がかりもない。本当にこまった。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)
こう言われてしまうと怯んでしまうかもしれないが、まったく望みがないわけではなさそうだ。中村は、さらに続ける。
「しかしよくよく読みすすめると、ホワイトヘッドの難しさは、この哲学者のせいではないことに気づく。ようするに、ホワイトヘッドが難解なのではなく、〈この世界そのもの〉が難解なのだ。・・・この状態をホワイトヘッドは、愚直にも真正面から描き切ろうとしている。これが、かれの本を難しくしている一番の理由だと思う。
そんなホワイトヘッドの本でも、よくしたもので、何度もなんども読んでいくうちに、少しずつ霧がはれてくる。なんとなくわかってくるのだ。この世界も、長く住みつき、おおくの経験をつむと、いろいろわかってくる。あれとおなじだ。」(中村昇『ホワイトヘッドの哲学』)
このようなわけで、ホワイトヘッドを一人で学ぶのはきわめて難しいだろう。そこで、本プロジェクトでは、みんなで挑戦してみよう、ということなのだ。しかも、アレグザンダーの思想に慣れ親しんでいる僕らならば、もしかしたら、それを糸口として理解への道がひらけるかもしれない。
なお、あらかじめ、断っておくが本プロジェクトの担当者である僕(井庭)は、ホワイトヘッドの研究者ではないし、特段理解が深いわけでもない。そのため、僕が解説したり、質問に答えるということは期待しないでほしい。僕を含む参加者全員で、難解なホワイトヘッドの哲学に挑戦する、そういうつもりで本プロジェクトに参加してほしい。
そのような難しい闘いではあるが、多少なりの勝算はある(あくまでも多少であり、また保証はないが)。それは、僕が普段、難解な本を読むときのプロセスや技を参加者に共有し、それを踏まえてみんなで取り組むということだ。ふだん僕は、難解な哲学書を読むときに、手に入るあらゆる入門書・解説書を片っ端から読みまくって、そこから本丸の哲学書にアプローチする。そうすることで、読み解き方を自分なりにつかみながら、自分で読みこなすことができるようになる。そのとき、僕は一人で20〜30冊くらい読むことになるわけであるが、それはなかなかにハードなことなので、それをそのままみんなにやってもらうというのは、非現実的だろう。そこで、本プロジェクトは、それを参加メンバーで分担しあうというやり方で行う。つまり、一人ですべてやる代わりに、「分担して読んでくる」+「紹介しあい話しあう」ことで、全員で理解を深めていくコラボレーションで取り組むのである。
最後に強調しておきたいのは、本プロジェクトで目指すことは、ホワイトヘッドの哲学を単に理解することではなく、その概念装置を通して、世界を見る(認識する)ことができるようになることであるということだ。また、ホワイトヘッドの哲学を理解することで、アレグザンダーの概念装置をより精密に理解し使いこなせるようになることである。
このような読書による概念装置の獲得ということについて、内田義彦が『読書と社会科学』で明解に語っているので、いくつか引用しておきたい。まず、概念装置とはどいうものかについて。
「概念装置を脳中に組み立て、それを使ってものを見る。・・・概念装置を使うことによって、肉眼では見えないいろいろの事柄がこの眼に見えてくる。それも、ある程度ながら-----用いられた概念装置にかかわりのある限りにおいては-----否応なく、好みを越えて、否定しようにも否定しがたく見せつけられるかたちで見えてくるんで、その限りだれでもが同じ地盤に立つ。同時に先人の発見の伝達と蓄積が可能になってきます。」(内田義彦『読書と社会科学』)
本を読むときに、単にそこに書いてあることを理解する・知る、というのではなく、認識の手段としての概念装置を獲得するために読むという読み方について、次のように述べている。
「本を読むことで、認識の手段としての概念装置を獲得する。これがかなめです。それも、-----概念装置が自分の眼に代わってものを見る手段に化けちゃわないで、自分の眼そのもののはたらきを補佐する手段として役立ちうるようなかたちで獲得することがかなめですから------認識手段としての概念装置を習うについても、単にこれをを覚える、配線図のリプリントみたいに筋がきを頭にたたきこんじゃ駄目です。組み立てながら、たえず自分の眼をはたらかせてその効果のほどを験してみながら、組み立て方・使い方を体得する。そういう操作をすることで、はじめて既成の概念装置も、自前の概念装置として役立ちましょう。」(内田義彦『読書と社会科学』)
そして、このように認識の手段としての概念装置を獲得するためには、単に受け入れるだけでなく、読んで、自分のなかでその概念装置を組み立て直す必要があると言う。これは僕もとても重要なことだと実感することだ。
「概念装置は、同じ自分の眼を補佐する装置であっても、物的装置とちがって、身体の外部ではなく内部にあるもの、自分の脳中に組み立てるものです。・・・一人一人、苦労して組立て作業をやらなければなりません。製品を調達するのではなく、自己製作をする。新しい概念装置を自分で開発する場合はもとよりのことですが、先人が作り上げて学界の共有財産になっている既製の概念装置をそのまま使う場合でも、それを自分の認識手段として使いこなすためには、組立て作業それ自体を、一、一この眼を働かせながらキチンと、ていねいにやって、自家薬籠中のものとしておかなければなりません。でないと、その概念装置は、知ってはいても、自分のこの眼でものを見る認識手段としては、役に立たない。その意味では、既製の概念装置の修得も、真にそれを自分の概念装置として獲得するためには、新しい概念装置の開発とまったく同じ種類の自主性と労苦がいる、ということを強調しておきたいと思います。概念装置はすべて、新旧を問わず自前でやらなければならない。で、心血をそそいで組立て作業をやる。やらざるを得ない。」(内田義彦『読書と社会科学』)
このように、独特の世界観をもつ哲学の本を読むということは、とても創造的な営みなのである。本プロジェクトでは、このような概念装置の組み立てという体験を、みんなで実践していければと思っている。とても大変ではあるが、やりがいのある、そんな「夏学期」をお楽しみに!
【入門編の文献】(全員共通)
・『ホワイトヘッドの哲学』(中村 昇, 講談社, 2007)
・『読書と社会科学』(内田 義彦, 岩波書店, 1985)
・『ザ・ネイチャー・オブ・オーダー:建築の美学と世界の本質 ― 生命の現象』(クリストファー・アレグザンダー, 鹿島出版会, 2013)
【助走編の文献】(下記のなかの1冊をグループで担当し、みんなに紹介)
・『ホワイトヘッド『過程と実在』:生命の躍動的前進を描く「有機体の哲学」 (哲学書概説シリーズ) 』(山本 誠作, 晃洋書房, 2011)
・『コスモロジーの哲学:ホワイトヘッドの視座』(チャールズ ハーツホーン, クレイトン ピーデン, 文化書房博文社, 1998)
・『ホワイトヘッド:有機体の哲学』(田中 裕, 講談社, 1998)
・『ホワイトヘッド:秩序への冒険』(ポール・グリムリー・クンツ, 紀伊國屋書店, 1991)
・『ホワイトヘッドへの招待:理解のために』(ヴィクター・ロー, 松籟社, 1982)
・『具体性の哲学:ホワイトヘッドの知恵・生命・社会への思考』(森 元斎, 以文社, 2015)
・『連続と断絶:ホワイトヘッドの哲学』(飯盛 元章, 人文書院, 2020)
・『日常の冒険:ホワイトヘッド、経験の宇宙へ』(佐藤陽祐, 春風社, 2021)
・『ホワイトヘッドと現代:有機体的世界観の構想』(山本 誠作, 法蔵館, 1991)
・『ホワイトヘッドと西田哲学の〈あいだ〉:仏教的キリスト教哲学の構想』(延原 時行, 法蔵館, 2001)
【本丸編の文献】(全員共通:訳が2種類と英語原著があるので、それらを複合的に使用して理解する)
・『過程と実在〈1〉コスモロジーへの試論』(A.N.ホワイトヘッド, 平林 康之 訳, みすず書房, 1981)
・『過程と実在〈2〉コスモロジーへの試論』(A.N.ホワイトヘッド, 平林 康之 訳, みすず書房, 1983)
・『ホワイトヘッド著作集 第10巻 過程と実在 (上)』(A.N.ホワイトヘッド, 山本 誠作 訳, 松籟社, 1984)
・『ホワイトヘッド著作集 第11巻 過程と実在 (下)』(A.N.ホワイトヘッド, 山本 誠作 訳, 松籟社, 1985)
・"Process and Reality"(Alfred North Whitehead, Free Press, 1979)